一生かけて、育てていってほしいから真面目にきちんと、手を抜かずにつくる。 一生かけて、育てていってほしいから真面目にきちんと、手を抜かずにつくる。

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ヒト・モノ・コト

Like a hotelに関わる人々の
価値観とモノづくり

Issue : 03

家具職人 BELKA 大深靖之さん

誠実に、丁寧に
想いが宿る美しい手仕事

一生かけて、育てていってほしいから
真面目にきちんと、手を抜かずにつくる。

長野県松本市に工房を構える「BELKA」。家具職人の大深靖之さんは、ここで無垢材家具のデザイン・設計から、製作、配送までを一貫して手掛けています。日本の伝統技術を結集した丈夫な構造と、見えない細部まで妥協を許さない完璧な仕上げ。そんなBELKAの家具からは、モノづくりに人一倍真摯に向き合う大深さんのお人柄が伝わってくるようです。

大深さんは、水族館で働いていたという経歴をお持ちですよね。畑違いの仕事である家具づくりに、なぜ興味を持ったのでしょう。

水族館の仕事は、生き物の飼育だけじゃないんですよ。館内の展示物をつくったりする大工仕事が楽しくて、次第に生き物よりもモノづくりの方に関心が向くようになりました。
僕の曾祖父は岐阜県で指物師を、祖父や叔父は南木曽町の妻籠宿で大工をしていました。幼い頃は帰省すると、祖父と叔父の工場に入り浸っていましたね。木の香りが漂う工場も職人さんたちが働く姿も、子ども心に格好いいなって。水族館でモノづくりをするうちに、この時抱いた憧れが蘇ってきたというんでしょうか。もともと家具が好きだったので、家具職人を目指そうと思い立ちました。
その後は木工の基礎を学ぶため、木曽郡上松町にある職業訓練校へ。ここで、合板ではなく無垢材を使った伝統的な家具づくりを学びました。卒業後は伝統工法を採用する工務店に就職。釘や金物を一切使わず、木組みだけで構造部分をつくるという現場で、造作家具や建具の製作に携わってきました。

独立されたのは2007年。もうすぐ20年が経ちますね。

「いつかは独立したい」という思いは、常にあって。妻籠にある祖父・叔父の工場を間借りしての開業でしたが、松本地区に憧れがあり、現在の工房へと移転しました。ここは、見晴らしが素晴らしいでしょう。マイホームを建てるにも人気のエリアですが、あまり宅地がなくて…。不動産屋を当たっても埒が明かないので、地元の人たちに聞き回って、やっとここを見つけました。



家具をつくる上で、一番大切にしているのはどんなことですか。

僕が最優先するのは、家具に丈夫さをもたらす構造です。そのためには、真面目にきちんと、手を抜かずにつくる。当たり前のことを、とても大切にしています。
丈夫で長持ちする構造にこだわるのは、「使い捨てではない家具をつくっている」という意識があるから。無垢材の家具は、合板でできた「フラッシュ家具」とは違って、木そのものを削り出してつくる家具。新品が一番良いわけではなく、年を経るごとに、色が深まり味わいも増していきます。例えばうちでよく扱うサクラなら、白っぽい肌色から、使い込むほどに深みのあるブラウンに。無垢材家具の魅力は、こうした経年変化を楽しみながら育てていけることです。


無垢材家具は、よく“一生もの”と言われますよね。

ヨーロッパでは、たとえ家が変わっても家具は受け継がれていきます。BELKAの家具も、妥協することなく頑丈につくっているので、世代を超えて使い続けてほしいですね。万が一壊れても修理ができるし、傷ついた表面をカンナで削ればキレイな素地が出てきます。でも、傷も含めて味になるのが無垢材の良さ。息子がめちゃくちゃに落書きした我が家の家具だって、僕は愛でることができるんですよね。


BELKAの家具づくりは、材料になる丸太を買い付けることから始まるそうですね。とても手間が掛かるし、リスクも大きそうですが…。

大抵の無垢材家具は、板状に製材した無垢材からつくられています。これらは質の良い外国産の無垢材で、乾燥済みなのですぐに使うことができます。さらに外国産は国産の木材よりも品質が均一で、加工もしやすいんですよね。
でも僕は、自分で国産材の丸太を選んで、製材所で挽いてもらっています。見た目が良くても、挽いてみると腐っていたり節だらけだったり…。乾燥させたらバリバリに割れてしまうこともあります。博打的でリスクが大きいから、みんなやりたがりません。

でも大深さんは、あえて丸太からの家具づくりを選んだんですよね。

僕は宣伝や営業が下手で、頑張っても能力を発揮できません。それよりも得意なことで、商品の差別化を図ろうと考えました。手間が掛かることや面倒くさいことに楽しみを見出せる質なので、それでより良い品質のモノづくりができたらなと。

外国産ではなく国産の丸太を使うのは、どんな理由からですか。

国産材は表情が実にさまざまで、同じ木目、色合いは一つとしてありません。次に出会う木材がどんな表情をしているかは、挽いてみないと分からないんです。反りや捻じれなどのクセも強くて、扱うにはそれ相応の技術が求められます。それぞれの木の持ち味を引き出すことは本当に難しいけれど、だからこそつくり甲斐があるんですよね。

BELKAでは、仕入れた丸太の乾燥も行っているそうですね。

挽いた生の丸太を天日干ししてから、自前のビニールハウスに入れて乾燥させます。家具に使われる広葉樹は、針葉樹と違って「人工乾燥機」ではうまくいかない可能性が高い。機械に頼らない天然乾燥の方が、良い状態に仕上がります。木材の厚さにもよりますが、材料として使えるまでには最低1年。国産の広葉樹は入手自体困難な上、乾燥に膨大な時間が掛かるんです。

丸太の調達から乾燥、家具の製作まで、すべてに携わっていらっしゃるんですね。出来上がった家具にも、人一倍の愛着が湧きそうです。

4年くらい前にこのやり方に変えて、正直苦労は何倍にも増えました。でも、この仕事が以前にも増して好きになりましたね。



家具づくりのプロセスの中で、一番楽しいことって何でしょう。

釘や金物を使わず木と木を接合する「木組み」は、やっていて楽しいですね。例えばBELKAのテーブルは、脚に幕板(天板の下で、脚と脚を繋いでいる板材)が刺さっているように見えますよね。これは、幕板同士が脚の中で組手になっているんです。こうすることで、家具の強度が高まるメリットもあるんですよ。脚と幕板が接する部分は滑らかに繋がるように、小刀で削って一体感を出します。立ち位置からは全く見えないところですが、妥協はしません。
あとは分厚い木材から手道具を使って、思い描く形に削り出していく工程も好きですね。彫刻をイメージすると、分かりやすいでしょうか。人の手でしかできない工程は、家具職人の技の見せどころです。
削り出した大量の木くずは、陶芸のように再利用ができません。そういう意味でも、家具はとても贅沢なモノなんです。捨ててしまうのはもったいないので、BELKAで出た木くずは長野県畜産試験場の牛床に使ってもらっています。

BELKAの家具は主にオーダーメイドとのことで、お客様との思い出に残るエピソードはありますか。

オーダーメイドの仏壇をつくった時のことが、印象深いですね。仏壇をつくるということは、亡くなった方への想いをかたちにすること。お客様の喜びように僕も嬉しくなって、心底この仕事をしていて良かったなぁって。


2024年中には、工房内に待望のギャラリーが完成予定ですね。どんなギャラリーになりそうですか。

今まではネット販売だけで、我ながらよくここまで続けられたなと。でもやっぱり、家具って手触りや質感がすごく大事だったりします。実際に触れて、座って、持って。自分で体感しないと、本当の良さが分からないんですよね。そういう場をつくることができて初めて、家具店としてのスタート地点に立つことができると思っています。

確かにこの木目の美しさや、しっとりと吸い付くような手触り、一つ一つ違う木の色合いは、実物でこそ伝わる魅力ですね。BELKAの家具が使われた『Like a hotel』のモデルハウスでも、大深さんのモノづくりの神髄が体感できそうです。
さて、最後は将来のお話です。大深さんは、これからどんな家具職人を目指していきますか。

まずは、お客様に喜んでもらうこと。そして、木に携わる職人さんたちがやりがいを持てる仕事を創出したいと思っています。林業や製材に携わる職人さんたちは、苦境の最中にあります。このままでは、やがて担い手がいなくなり、この尊い日本の伝統技術が失われてしまう。そういう行く末を危惧しています。
僕の力は微々たるものだし、特別なことができるわけでもありません。でも地元の木材を積極的に活用し、木に携わる人たちと関わっていくことには意味があると思うんです。
日本の山には、ヤマザクラやナラといった家具に使える木がたくさんあるそうです。でも商売にならないから、市場に出てこない。BELKAの家具にこうした材料を使うことで、木をとりまく経済活性化に、微力ながら貢献できたらうれしいです。